チンパンジーにももちろん思春期はあるが、野生の状態でデータを取るのはむずかしい。
メスは7歳ごろから性皮が腫れて、身体的に成熟した徴候を見せはじめるものの、実際におとなのオスと交尾して子どもを産めるようになるのは10歳を過ぎてからだ。
オスも8歳ごろから畢丸が大きくなるが、父親になれるのは13歳ごろからだ。
チンパンジーの思春期には人間ほどはっきりした変化はないが、それでもティーンエイジになるとやはり行動が変わってくるという。
「思春期の定義がどうあれ、おとなとみなされる前には、性ホルモンが全身にゆきわたって行動が変化する長い時期がある」とPは言う。
たとえば若いオスは、身体的に成熟すると年長のオスを慕うようになり、最初のうちはおっかなびっくりだが、彼らと時間を過ごしたがる。
「おとなのオス集団に近づこうとした若いオスが、ついてこようとする母親を何度となく振りかえるところを見たわ。
おとなのオスは、むしろ母親のほうに興味があるの。
だから後ろからこっそりついてくる母親もいるのよ」しかし若いオスがおとなのオスの仲間入りをするには、力が十分にあることを荒っぽい形で示さなくてはならない。
身体的成熟に達した若いオスは、若いメスたちを痛めつける。
おそらく、年長のオスの攻撃行動を模倣しているのだろう。
こうしてメスを支配下に置いておけば、あとでしたいときに交尾できるようになる。
「それはけっこう残酷で恐ろしい光景よ」とPは言う。
「みんなが丸くなってグルーミングに興じるときなんかは、とても円満に見える。
でもその背後には脅しが潜んでいる」チンパンジーと人間の思春期には共通点が多いが(メスへの暴力は別だと思いたいけれど)、明らかに異なる傾向もある。
最初に目につくのが、人間の場合、身体が成熟する年齢が下がっていることだ。
栄養状態がよくなったことも手伝って、身体成熟は100年前に比べて女の子で2年は早まっている。
おそらく男の子も同じだろう。
20世紀のはじめごろ、女の子の初潮年齢は平均15歳だったのに、現在はそれが13歳に低下しているのだ。
このような身体成熟の低年齢化が、脳と身体の「断絶」を招いているのではないかとPは指摘する。
「脳が身体に追いついているか?私たちはそれを考える必要があるわ」。
しかしそもそも、なぜ人間は幼少期や思春期がこんなに長いのか?生まれてから18年、場合によってはそれ以上長いあいだ、おとなに依存し、守ってもらうのは何のため?チンパンジーなどは、2~12年でママから離れて独立できるというのに。
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